その愛はゆうパックじゃ伝わらんだろう?【軽率に生きる日】

Pocket

帰りたい、と思った。

帰ったら大変なことが起きる、とも思う。でも帰りたい。あの空気の中で生きたい。論理でなく感覚だろうと思う。

福岡の話だ。福岡に移住したくて今、思いが巡って行く。

といっても、実家のある福岡県北九州市でなく、できればもっと都心に。母とはほど良い距離でいたいと思う。

先週の金土日で福岡へ帰った。土曜の友人の結婚式は、ただ感動し泣いて笑うばかりだった。その前夜は、実家に泊まったのだけど。

駅まで迎えにきてくれた母。夕飯を楽しく一緒に食べた母。母の夫が帰宅して、ただ楽しく話した。楽しくてがんがんビールを飲み、ぐだぐだに喋る母。シラフのわたしと深夜までただ話したけれど、最終的には虚しさが残った。だっていくら真面目に話したって相手が酔っぱらいじゃ独り言。一人よりさびしい。切り上げようと腰をあげても、なんだか一人にできない気持ちになっていて、あの夜、わたしは何年ぶりかに母と自分の境界線を見失っていたように思う。母はさびしがりやで、負けずにわたしもさびしがりやだ。

翌朝、スピーチを書き上げて、実家のリビングにおりた。

「酔ってたわ〜〜」と朝ごはんを出してくれた母。朝食は、焼きシャケにごはんに具沢山のお味噌汁、作りたての茶碗蒸しにわたしが土産に買ってきた漬物と納豆も。母だった。酔っ払いじゃなかった。それだけでわたしは実家の朝がすきだ。これこそが真実だと信じたくなるけれど、昨晩から全てが真実だ。

この時点でわたしは自分が本当に福岡に住みたいかわからなくなっていた。こういう母と、車で二時間かからない距離に住むことはどういう意味なのか?母が何かするということはなくて、どちらかというと、わたし自身の土台がぐらつく気がしていた。離れていたからこそ互いに幸せだったのか?そう思う朝だった。

気持ちを、博多に向かう新幹線の中で切り替えた。自分には大役があることを思い出した。

着付けをした。薄緑の着物は身を守るようにしっかりと巻きつけられて、ぎゅう、とお腹がしまる。慌ただしく着付とヘアセットが終わって、荷物を置いてタクシーに飛び乗った。空が晴れていて、タクシーのおじちゃんは客が女だと言うだけでただただ失礼で、ここが福岡だと思い出す。

参列者の中で、一番乗りに待合室に入った。続々と友人がやってきて、せかせかと贈り物のアルバムを作る。恒例行事だ。散り散りになった友人らで事前に示し合わせて、式の当日に急いでそれぞれのメッセージと写真を合体させる作業。重厚な木製のテーブルに散らばる写真とシールとハサミとペンと。人が空気を作るし、空気が場所を作るし、場所がわたしの心を湿らせていく。スピーチの文面を書き直したわけでもないのに、封筒の中の一枚の紙が少しずつしっかりと重たくなってきた。これは必要な重さだ。

時間だ。教会に呼びいれられ、そして滞りなく式が進む。新婦の入場する姿は泣きながら写真を撮った。着物なのに首から一眼レフとデジカメをさげてバシバシ写真を撮る。しゃがみ、カメラと共に傾き、ただ撮った。そして泣いた。泣くわたしを見た友人が泣き、泣くわたしを見た新婦の母が笑う。泣きながらただシャッターを切った。この空気ごと全部全部、絵になれと思う。

披露宴。席に着くと、席札にメッセージがあった。ちくりとする。お祝いの言葉をこれから贈る相手からの言葉。8年間をすぐそばで生きた友だちとはいえ、自分の作ったスピーチには自信がなかった。そもそも、好きすぎてよく相手のことを言葉にできなくて、もどかしさが募るスピーチを書いていた。

席札の裏のメッセージを開いて、読んで、笑った。

なんだ、一緒じゃないかと、涙が出てくる。わたしがスピーチに書いたことがそのまま書いてある。こんなに気持ちが重なるもんかな。面白いな。なんだ、わたしのスピーチ、花丸もんだな。

披露宴が終わった。スピーチではびしゃびしゃに泣いた。前半は多少ウケてて良かった。後半のわたしの友だちへの愛も伝わっただろう。

披露宴の最中、友だちの母に話しかけられた。

「あんた、(福岡に)帰ってくるらしいね!」

「そうなんよ!だって埼玉にいたら○○に会えんからね!」

自分の返答にくらくらする。

着付けてもらったお店で着物を脱ぐためにタクシーに乗る。通り過ぎていく街。光が流れていく。福岡に帰りたかった理由。帰る理由がもう、揺るぎなくここにある。

わたしはただ友だちのそばでまた生きたかったんだった。あの人と、会おうと思ったら気軽に軽率に会える場に暮らしたかった。ただそれだけだった。

わたしはいい大人で、社会人で、夫の妻で、子どもたちの母で。でも全然、それだけじゃ全然足りなくて、わたしは友だちのそばにいたくて、同じ空気を吸いたかった。同じ土をふみたかった。こんな自分がとても無責任に思えて仕方ない。でも、これでいいと思ってる。

遠距離で愛を飛ばすなんてできないんだ。わたしには。

近距離で愛を手渡しする人として生きるんだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA